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2014年1月15日

福岡民報 2014年1月号

市町村国保の広域化は住民に何をもたらすか 2014

日本共産党福岡県委員会 議員相談室 三浦紀彦

あいつぐ保険税(料)の値上げ

平成22年度以降、国保の広域化方針(福岡県、市町村国保広域化支援方針、平成22年12月策定、以下「支援方針」)に基づき、県内の各自治体で保険税(料)の値上げが相次いでいます。平成24年度には、うきは市、小郡市、平成25年度には宗像市、福津市、飯塚市など。

中でも、飯塚市の事例が典型的ですので紹介します。

飯塚市は平成27年度に大幅な制度改革が見込まれるので、平成25年度、26年度の2ヵ年分の財源不足6億円を解消するために値上げするとして一挙に平均20%の大幅値上げに踏み切りました。一般会計からの繰り入れは、地方単独事業(福祉三医療)の国からのぺナルティー=1億円に限定しています。この値上げによって飯塚市は、所得72万4,000円(一人暮らし)の場合、11万7300円から14万8700円と年額3万1,400円の値上げ。所得208万円(夫婦と子ども2人の4人家族)の場合、37万5500円から46万5400円と年額で8万9,900円もの値上げとなっています。(市の試算より)。

値上げの理由としてあげた平成27年度の大幅な制度改革とは、平成27年度から保険財政共同安定化事業(現在レセプトー件30万円から80万円の医療費が共同事業の対象)をすべての医療費に拡大することをさしています。

県内市町村国保の現状「支援方針」より

1)加入世帯(平成22年度末現在)

加入世帯:770,390世帯(割合 35.4%)
被保険者数:1,327,451人(割合 26.3%)

2)世帯主の職業状況(平成22年度)

農林水産業 2.2%。自営業 18.4%。被用者 32.4%。無職 45.6%。その他 1.3%。

※ 国保創設時に主体であった農林水産業や自営業者から被用者(従業員5人以下やパート・アルバイトなど)と無職の被保険者世帯が全体の8割近くを占めています。

3)医療費の状況

被保険者一人あたりの医療費(平成22年度)
331,373円(全国平均の1.11倍)

※ 一人あたりの医療費は医療の高度化や高齢化のため上昇傾向にあります。

4)被保険者一人当たりの平均保険税(料)=平成24年度

平均保険税(料) 82,632円
最も高い市町村 98,605円
最も低い市町村 54,454円(1.53倍)

※後期高齢者医療制度が発足した平成20年度=84,972円と比べると国保税の値上げがあいつぐ中で年々下がっており、その原因は国保世帯の所得の減少にあります。

5)収納の状況(平成22年度)

90.29%。全国24位。全国平均は88.61%。

※ 平成24年度6月1日現在の滞納世帯は132,159世帯(16.8%)

6)財政運営の状況(平成24年度)

一般保険者の医療給付費分にかかる実質収支で見ると17の市町村が赤字で総額は57億円となっています。うち、15団体は赤字解消計画を策定しています。2年連続赤字の場合、国の指導により策定することが義務づけられています。15団体名は以下の通り。

嘉麻市、朝倉市、行橋市、中間市、小郡市、太宰府市、粕屋町、鞍手町、広川町、香春町、糸田町、川崎町、大任町、福智町、築上町

※ 上記のような国保の現状から、県も、「高齢者の割合が高く、所得水準が低いといった国保の構造的な課題に起因」している財政運営の厳しさは、「財政運営を広域化したり、運営主体を県に変えただけでは解決しない」=6月議会知事答弁=と言っています。

国保の「広域化」は耐え難い住民負担と過酷な徴税強化、国保からの排除に

1)国保の運営責任を市町村から都道府県に移管

安倍政権が強行した社会保障改革プログラム法では、平成29年度から国保の運営責任を市町村から都道府県に移管するとしています。その第一歩として、平成27年度から一件あたり80万円までのすべての医療費を保険財政共同安定化事業の対象とします。一件80万円を超える医療費は、現在ある高額医療費共同事業(国4分の1、県4分の1、市町村2分の1)で実施します。(総額134億円=平成24年度)

保険財政共同安定化事業の市町村の拠出金は現行の実績割50%、被保険者数割50%で算定。医療給付費の実績などに基づき、各市町村の拠出金は当然異なります。「広域化」に向けて、県の調整交付金はすでに平成24年度から7%から9%となっています。県の調整交付金の交付方法は「拠出超過額が交付額の1%を上回った市町村に対し、その上回った額を県調整交付金で激変緩和措置として交付する」としています。

これらの措置で確かに各市町村間の保険税(料)の格差は縮まりますが、分賦金方式ですので、市町村間の国保税(料)は当然異なります。

全国知事会は都道府県の移管に関し、政府にたいし、国保の構造的な問題が解決し、持続可能な制度とすることが前提と折衝していますが、平成29年度以降、後期高齢者医療制度のように保険料が県で一本化されるかどうか未定です。

2)「広域化」に向けての県の具体的方針「支援方針」より
  • 収納率を国の基準(自治体の規模に応じて89%から92%に設定)目標に設定―「支援方針」には、「今後の収納率の推移を踏まえ、県交付基準の見直しなど必要な取り組みを検討」とペナルティー化を示唆しています。
  • 医療費の適正化
    高医療費市町村に対して、医療費適正化(医療費の抑制)のとりくみを重点的に支援していくとしています。
  • 繰り上げ充用(翌年度保険料の充用)と一般会計からの法定外繰り入れ解消について

繰り上げ充用
平成24年度 25市町 総額80億円

一般会計からの法定外の繰り入れ
平成24年度 42市町 総額149億円

※ 各市町村における繰り上げ充用や一般会計からの法定外繰り入れの出来るだけ早期の解消(平成28年度)に向け、県は必要な助言を行っていくとしています。もし、これが、保険税(料)の値上げによって解消されるとしたら、229億円の県民負担増となります。(北九州市1世帯約3万円の値上げ。福岡市1世帯約2万円の値上げ)

国が、国保がかかえる構造的な問題を解決する方策を示さず、「広域化」方針を推進するなら、住民の耐え難い保険税(料)負担、過酷な徴収強化、資格証発行などによる医療保険からの排除につながることは必至です。

平成29年度以降、保険者が県に移行した場合、未定の部分が多くありますが、それまでは国保税(料)の賦課・徴収は市町村によって行われます。これまで通り市町村が独自に一般会計からの繰り入れで保険税(料)の軽減や各種の独自施策を行うことは可能です。

現に厚労省の実務責任者は収納率が低くて「分賦金」の必要額が集まらなかった市町村には「一般会計繰り入れ等で分賦金を確保」してもらうと言っています。

国民皆保険制度の根幹である国保の再生には、国庫負担の引き上げがかかせません。“国庫負担の引き上げ”を要求している全国知事会、全国市長会などの地方6団体の一致点に基づく共同と併せて、国保税(料)の値上げに反対する住民運動(2008年から福岡市で取り組まれた国保をよくする会の26万筆の署名運動など)と議会論戦が求められています。

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