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2016年2月3日2016年8月8日

福岡民報2016年2月

市町村国保の広域化は住民に何をもたらすか

日本共産党福岡県議会議員団事務局 三浦紀彦

はじめに

2015年の通常国会で国民健康保険法が改正され2018年度から都道府県が市町村とともに国民健康保険の運営を担い、財政運営については県が責任主体となることが決まりました。

その最大の目的は、地域医療構想の策定等の主体である県が、国保の財政運営の責任主体となることにより都道府県が医療保険と医療提供体制の両面をみながら医療費を抑制することにあります。

1 相次ぐ保険料(税)の値上げ

福岡県は、国の方針に基づき2010年12月に「福岡県市町村国保広域化支援方針」(以下支援方針)を策定。国保の広域化移行のため、一般会計から法定外繰入れ(2012年度42市町総額149億円)の解消、繰上げ充用(前年度保険料の充用、2012年度25市町村総額80億円)の解消、収納率の引上げ等を「支援方針」の中でうたい市町村を指導しています。このため県内の各自治体で保険料(税)の値上げが相次ぎ、2011年度から2015年の5年間で下記の市町村が値上げしています。

北九州市、福岡市、大牟田市、飯塚市、柳川市、嘉麻市、朝倉市、八女市、筑後市、大川市、豊前市、中間市、小郡市、宗像市、福津市、宮若市、桂川町、糸島市、うきは市、宇美町、筑前町、大木町、広川町、春香町、添田町、吉富町、東峰村、赤村の計28自治体は、2015年度に値上げした自治体

この他、田川市などは2016年度から保険税を一挙に30%の値上げを決めており、広域化(県も保険者になる。)が実施される2018年度に向けてさらなる値上げが予測されます。

2 決算特別委員会で高瀬菜穂子県議が市町村国保の広域化について質す

2015年度の県の決算特別委員会で高瀬県議が国保の広域化問題について質問しました。市町村段階での議会論戦に生かせる部分がありますので紹介します。

① 国保の構造的課題(高齢者の割合が高く低所得者が多い)に起因する財政運営の厳しさに対する認識について質問

答:国保の財政運営の厳しさは、国保が抱えている構造的な問題に起因しているため、財政運営を県に変えるだけでは解決するものではないと考えており認識は同じである。

平成27年度保険者支援制度金額一覧(申請ベース)

② 2015年度から保険者支援制度が拡充(全国で1,700億円、県全体で105億円余)されたが、確実に被保険者の負担軽減に活用されるよう市町村に助言・指導すべきと思うが県の見解について伺いたい。(右表参照)

答:保険者支援制度は市町村における低所得者の数に応じて一定割合を交付するもので低所得者が多い市町村に対して財政支援を行うもの。具体的な活用については市町村が、個別に判断されるべきと考えるが結果的には、保険料の伸びの抑制など被保険者の負担軽減が図られていくものと考えている。

注:被保険者1人あたり平均で約5,000円の交付、2017年度以降、国は3,400億円に拡充。県内ではこの制度を活用したのは両政令市のみ。北九州市は被保険者1人あたり5,000円程度の保険料を値下げ。

(議会と自治体2015年10月号北九州市議団石田団長レポート参照)


③ 資格証の発行(窓口で10割負担)の取り止めについて

答:資格証明書については滞納者への納付相談の機会の確保のため交付は必要であるが、保険料を1年間滞納した場合でも特別の事情がある世帯主に対しては交付しないこととなっている。また資格証明書を交付した後についても被保険者が医療を受ける必要が生じ医療機関に対する医療費の一時払いが困難である旨の申し出を行った場合には短期被保険者証を交付することができるとされている。

注:資格者証交付者には事実上、受診の権利が奪われている世帯で県内21,500世帯にのぼる。他、何らかの理由で被保険者証等の交付を受けていない世帯が1万世帯近くある。

④ 広域化にあたって”財政安定化基金”が新たに設置されるが、このことによって介護保険のように一般会計からの繰り入れをさせない仕組みとなっている。市町村国保会計に財源不足が生じた場合、一般会計からの繰り入れは市町村独自の判断でできると思うが県の見解を伺いたい。

答:財政安定化基金は、国保財政の安定化のため給付増や保険料収納不足により財源不足どなった場合に一般財源からの財政補填を行わないでよいように都道府県に設置されるもの。このため市町村が基金の貸付、交付を受けた場合、その返済等の財源については保険料により賄うことが基本。一方で市町村国保会計に財源不足が生じた場合に、一般会計からの繰り入れをすることについては、ご指摘のように適切な財政運営を念頭に置いたうえでそれぞれの市町村においてご判断いただくものと考える。

注:後期高齢者医療の場合、財政安定化基金は保険料の抑制や値下げのための活用を国は認めている。介護保険の様になるか、後期高齢者医療のようになるかは今後の闘いにかかっている。高瀬菜穂子県議の決算特別委員会質疑要旨は昨年11月16日の全県議員会議資料に掲載しています。参照してください。

3 今後の課題について

国は一般会計からの法定外繰入れや前年度繰上げ充用については今回の財政支援措置(保険者支援制度の拡充)や都道府県からの保険給付について要した費用を全額交付する仕組み(財政安定化基金)のなかで解消が図られる方向になっているとし、最長5年を目処に赤字解消のための具体的取組みの策定を打ち出しています。国保の広域化は県が司令塔となる医療費の適正化(地域医療構想の策定に基づき第3期の医療費適正化2018年度以降)と表裏一体であるだけに国保の保険料(税)や形態についても注視されます。

国は標準保険料利率の算定方式(ガイドライン)の案を示し、今年度中(3月末まで)に説明会を行ない2016年中に確定します。

保険料は保険給付費に応じた分賦金方式となっていますが、二次医療圏ごとのグループ別保険料も認めています。

県は、福岡県介護保険広域連合のようにグループ別保険料が「介護保険広域連合」の実態や地域医療構想(二次医療圏ごとの病院病床の再編、縮小計画)から見て最も医療給付抑制に連動する方式と考えているのではないかと思います。

医療給付の増が保険料(税)の値上げに連動する仕組みを導入し、医療サービスの抑制と過酷な徴収強化、資格証の発行などの強権的な国保運営が危惧されます。

安倍内閣が推し進める医療分野での闘いは、県も市町村もまさに正念場を迎えようとしています。

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