
世界各地で、異常な豪雨、台風、猛暑、森林火災、干ばつ、海面上昇など、気候危機とよぶべき非常事態です。ドイツの環境シンクタンク「ジャーマンウォッチ」の評価でとくに日本は、2018年に、気候変動の被害を受けやすい国ランキングで世界1位、翌19年も第4位となりました。
内閣府の資料によれば、日本においては過去10年間(2009年~2018年)に実に97%以上もの市町村で水害・土砂災害が発生しています。近年、豪雨災害がほとんど毎年のように発生し、しかも、広い範囲での長時間の記録的な大雨により、大規模な河川氾濫や浸水被害、土砂災害をもたらし、多数の死者・行方不明者が発生しています。
この10年を九州・福岡県で見ると、2012年7月11日~14日「平成24年7月九州北部豪雨」、2012年9月15日~19日「台風第16号」、2014年7月6日~11日「台風第8号・梅雨前線による大雨と暴風」、2017年7月5日~7月6日「平成29年7月九州北部豪雨」~朝倉市、東峰村などで土砂災害、洪水、2018年7月5日~7月8日「平成30年7月豪雨・台風第12号」~佐賀県、久留米市などで浸水被害、2019年8月27日~29日「前線による大雨」~佐賀県、久留米市などで浸水被害、2020年7月3日~31日「令和2年7月豪雨」~熊本県球磨川水系で氾濫・決壊、久留米市・大牟田市などで浸水被害などです(九州災害履歴情報データベース・一般社団法人九州地域づくり協会より)。
温室効果ガス(大半はCO2)排出を、2030年までに10年比45%削減、50年までに実質ゼロを達成できないと、平均気温の上昇を産業革命前比1・5度までに抑え込めません(国連IPCC「1・5度特別報告書」)。このまま有効な対策を執らずに地球温暖化が進行すると、2000年頃からの平均気温が最大4・8℃上昇すると予測されています(「2100年未来の天気予報」、環境省HPより)。3~4度上昇すると、影響が連鎖して悪化を止められない破局的な事態になります(国連IPCC「1・5度特別報告書」)。気候危機の打開は、私たちにとっても、とくに子どもたちの未来にとって、緊急で死活的な大問題です。
日本共産党は2021年9月、「気候危機打開の日本共産党の2030戦略」を発表しました。そのなかで、自公政権のエネルギー政策には4つの問題点(①2030年までの削減目標が低すぎる、②石炭火力の新増設と輸出を進めている、③原発依存―――最悪の環境破壊と将来性のない電源を選択する二重の誤り、④実用化のメドも立っていない石炭火力でのアンモニア混焼など「新技術」を前提にする無責任)があることを指摘し、自公政権がやっと2020年に「2050年カーボンゼロ」をかかげたものの、中身を見れば「口先だけ」というほかないものであることを指摘しました。
地球温暖化対策推進法の改正で、各自治体の領域での温室効果ガス削減計画の策定が迫られるなか、福岡県も「福岡県地球温暖化対策実行計画(第2次)」を策定しています。ところが、「中期目標としている2030年度の温室効果ガス排出を2013年度比で46%削減する。長期目標として2050年度までに温室効果ガス排出の実質ゼロを目指す」と、自公政権と同じ不十分な目標です。
「2013年度比46%削減」とは、2010年比では42%減であり、国連の示す「2030年までに2010年比45%減」という全世界平均の目標よりも低い恥ずかしい目標で、これでは「2050年実質ゼロ」は口先だけと言わざるを得ません。先進国の2030年までの目標は、最低でも50%以上、60%台です。先進国には、産業革命以来、CO2を排出してきた大きな責任があり、高い目標を実行できる技術力と経済力も持っており、日本には、世界平均以上の目標ですすめる責任があります。
脱炭素社会に向けて、多くの環境団体・シンクタンクが、2030年までの目標と計画を示しており、政治的、経済的な立場の違いはあっても、エネルギー消費を20~40%減らし、再生可能エネルギーで電力の40~50%程度をまかなえば、CO2を50~60%程度削減できる、という点で共通しています。
日本共産党の「2030戦略」提案の要点は次の通りです。
日本共産党の「2030戦略」は、2030年までに石炭火力と原発をとめて、いまの技術力でもできる40%の省エネの実行と50%の電力をまかなう再生可能エネルギーの普及でその目標を達成するというものです。そのために、地方自治体からのとりくみを重視します。
産業分野でのCO2排出は電力に次いで大きく、環境省によれば全体の25%を占めています。県内のCO2排出量をみても、2017年度5786万トンのうち産業部門が45%、運輸部門が18%、業務部門が13%、工業プロセスが11%で、経済活動の4分野で計87%を占めています。家庭部門は11%です。
しかも、県内の大口排出事業所のCO2排出量上位10社だけで2017年度2154万トンを排出しています。排出量全体の37・23%をこの10社が占めています(2017年度、福岡県排出量統計と温室効果ガス排出量算定・報告・公表制度より)。
日本におけるCO2排出量は、環境省の「2019年度の温室効果ガス排出量」によれば、発電所(エネルギー変換)が39%でトップとなっており、電力分野がCO2削減の成否を握っています。にもかかわらず、日本政府は石炭火力に固執し、COP26で化石賞を受賞しました。
福岡県には、全国8位の20カ所の火力発電、9カ所の石炭火力発電があります(資源エネルギー庁「電力調査統計」2019年度 都道府県別発電実績)が、県内の火力発電所のCO2排出量の上位5発電所で1294万トン、全体の22・36%を排出しています(2017年度、福岡県排出量統計と温室効果ガス排出量算定・報告・公表制度より)。
九州電力は、全国の電力事業者のなかで唯一、4基もの原発を稼動させていますが、2019年10月13日以来、太陽光発電を送配電網から切断する、出力抑制を繰り返しています。これは、2015年に自公政権がエネルギー基本法を改定し、原発の電力をベースロード電源として、再生可能エネルギーの電力より優先接続にしたことが原因です。原発への固執は、再生可能エネルギーの大規模普及にとっても大きな障害になっています。
再生可能エネルギーの普及の大きな障害になっているのが、県内各地でも大きな問題になっているメガソーラーや大型風力発電のための乱開発が、森林破壊や土砂崩れ、住環境の悪化や健康被害の危険を広げていることです。目先の利益追求での乱開発・環境破壊を放置するなら、再生可能エネルギーへの大胆な転換を阻害し、気候危機も打開できなくなってしまいます。
域外・外国の資本による乱開発を防止することは、利益の地域外への流出を防ぎ、地域のエネルギーであり資源である再生可能エネルギーを、地域の産業として開発し、地域の雇用や需要の創出につなげることにもなります。
「環境を守る規制を強化し、乱開発をなくす。」「『新たな開発』ではなく、既存の施設・建築物・未利用地などの活用を推進。」――この二つの方向での解決が必要です。
森林法などの現行法は、森林を伐採してメガソーラー発電所をつくるなどの事態を想定していません。
工場の屋根に太陽光パネルを設置して、エネルギー転換とコスト削減を実現した企業も生まれています。欧州では、ほとんどの住宅や建築物に太陽光パネルが設置されている町も多くあります。
脱炭素の取り組みが遅れるほど、日本企業の競争力も失われます。日本自動車工業会は「ライフサイクル(製造・消費工程)全体でのカーボンフリー(脱炭素)が求められる世界の流れの中、再エネ普及が遅れ、製造時CO2(二酸化炭素)の問題で日本生産の車が輸出できなくなった場合」には、年間約500万台の輸出がなくなり、雇用に100万人、経済に26兆円のマイナスになると試算しました。
研究者らでつくる「未来のためのエネルギー転換研究グループ」によれば、2030年までにエネルギー需要を約40%削減する省エネと、再エネで電力の44%をまかなうエネルギー転換により、雇用254万人創出、国内総生産(GDP)205兆円増が可能としています。エネルギー転換で影響を受ける産業分野での現在の雇用者20万人をはるかに上回り、投資額は、2030年までの累計で202兆円となり、GDPを205兆円押し上げ、化石燃料の輸入削減額は52兆円になるとされています。
省エネは、企業にとっても中長期的な投資によってコスト削減とまともな効率化をもたらします。住宅などの断熱化は、地域の建設業などに仕事と雇用を生みだします。再生可能エネルギーのための地域の発電所は、石炭火力や原発などより、はるかに多い雇用を生み出し、地域経済の活性化につながります。海外に依存してきた化石燃料への支払いは大幅に減り、日本経済の弱点である低いエネルギー自給率は大きく向上し、再エネの普及によるコスト削減もあり、電気料金の値下げにもつながります。
経済成長と脱炭素化を同時にすすめるというグリーン・リカバリー(緑の復興)が世界的規模での大きな課題になっています。しかし、日本政府はこのような考え方を対策の基本に位置づけていません。本気で2050年にCO2排出実質ゼロをめざすなら、“コロナ前”に戻る従来型の「経済対策」ではなく、省エネ・再エネの推進を軸にしたグリーン・リカバリーこそすすむべき道です。
専門家の方々の協力で試算したところ、日本共産党の「気候危機打開 2030戦略」規模の省エネと再エネの実行により、2022~2030年の福岡県内での年平均投資額は少なくとも7900億円で、県内に年平均5万6600人の新たな雇用が生まれるとされています。5万6000人といえば、たとえばトヨタ自動車九州(総人員約1万800人、2021年4月1日現在)を毎年5つ誘致する規模の雇用です。しかも、産業から家庭まであらゆる分野の省エネ効果、地産地消・小規模分散型の再エネの本格的な普及は、県内のすべての自治体、地域でくまなく新たな仕事と雇用を生み出すことができます。
脱炭素化を国家の大プロジェクトとしてすすめることは、日本の大企業の400兆円を超える行き場のない内部留保資金を、省エネや再生可能エネルギーという企業にとって利益を生み出し、将来性も大きく期待できる新たな投資先を生み出すことになります。また、公的投資は、先の研究者ら試算では年間5兆円程度の規模が必要になりますが、現在でも年間25兆円規模の公共投資が行われており、巨大開発の見直しなど公共投資の転換でまかなうことができます。
中小企業や住宅などを支援するための無利子融資への利子補給などの財源は、それほど大きくありませんが必要です。こうした財源は、公共事業の転換とともに、エネルギー関連予算のうち33・8%(4121億円)と、最も割合が多い原発関連予算の抜本見直しでつくり、エネルギー予算の7、8割を再生可能エネルギーに振り向けます。
中小企業にとっても、脱炭素の取り組みは光熱費・燃料費削減などのコスト面だけでなく、売上げの拡大、融資獲得といった事業の成長につながります。
地球規模での食料難とともに、「農業による環境破壊」や森林破壊が大きな問題になっており、食料や木材の自給率向上は国際的な責任です。耕作農地の減少を食い止め、CO2貯留量を増やす農地を確保することも大切です。所得補償、価格保障、国内材の活用など農業、林業の基本的な振興策とともに、脱炭素・環境保全型の農林業を振興します。
脱炭素や環境優先の交通政策に転換し、鉄道、路線バスなどの公共交通を重視します。40年前の国鉄民営化から続いている「民間まかせ、市場まかせ」の鉄道政策を見直し、鉄道の公共性、脱炭素社会への重要な役割にふさわしく国が公的に支えることが求められています。
多くの自動車は十数年で買い替えられます。いまから年限を定めて切り替えをすすめれば、2050年までに自動車からのCO2排出をゼロにできます。
都市・住宅の断熱・省エネ化を、新築・改築時に進めることが必要です。また、都市の再開発や大型開発事業にあたっては、CO2排出量を削減するという視点から計画を見直します。九州・沖縄で住宅用太陽光発電への助成制度がないのは福岡県だけです。
東京電力・福島第1原発事故以降、どの世論調査でも、原発の再稼働反対は揺るがない国民の多数になっており、「原発ゼロ」は福岡県民の願いです。原発輸出も軒並み頓挫しています。ところが、自公政権は、国民の意思も、いまも被害に苦しむ福島の現実も顧みず、2030年度に電力の20~22%を原発でまかなう計画を策定するなど、原発に固執し続けています。
九州では、福島第一原発事故の原因の解明どころか現状さえも把握できないもとで、九州電力の玄海原発と川内原発が再稼働しています。新しい規制基準は、他国と比べて世界一安全とは到底言えないものです。玄海原発で福島第一原発なみの事故が起こった場合を想定した避難計画は、住民を被爆ささせないための実効性のある計画にはなっていません。
気候危機打開の取り組みをすすめるには、財界いいなりの政治を変え、石炭火力利益共同体、原発利益共同体の抵抗を排除しなければなりません。福岡県は、エネルギー政策も自公政権のいいなりで、県議会は石炭火力と原発にしがみつく大企業にものが言えない「オール与党」です。企業団体献金を受け取らない日本共産党だからこそ、大企業の横暴に対して堂々とものが言えます。
世界経済フォーラムによる2022年版の「ジェンダーギャップ報告書」(各国の男女平等の達成度を示した指数)では、日本の平等達成率は65・0%で、21年の65・6%から後退し、146カ国中116位、主要7カ国(G7)最下位が続いています。同報告書は、国ごとの男女格差の状況を、経済・政治・教育・健康の4分野で分析していますが、日本は、とくに経済と政治の分野での格差が大きく、順位を引き下げてきました。
調査が始まった06年、日本は79位(達成率64・5%)で、フランス70位(65・2%)とあまり変わらず、韓国92位(61・6%)より上位でした。しかし、22年はフランスの15位(79・1%)から大きく引き離され、韓国99位(68・9%)にも、20年の調査以降、順位で追い抜かれています。
男女賃金格差の是正や、国会など意思決定の場に女性を増やすことなど、各国がジェンダーギャップの解消のためにさまざまな手だてをとってきた中、日本の政治が真剣に取り組んでこなかったことが、こうした状況を招きました。
日本で低迷が著しいのは121位の経済分野です。達成率は21年の60・4%から56・4%に下落しました。コロナ禍で相次いだ休業、倒産、解雇の影響の多くが女性にのしかかったためです。労働参加の達成率は84%から75%に、同一労働における賃金格差は65・1%から64・2%へと低下しました。
政治分野は139位と際立った遅れです。衆院議員に占める女性の割合が昨年の総選挙で9・7%にとどまり、閣僚は20人中で女性3人という少なさです。
2022年3月8日の国際女性デーに合わせ、上智大の三浦まり教授らでつくる「地域からジェンダー平等研究会」が、都道府県版ジェンダー・ギャップ指数の試算を公表しました。都道府県版も世界経済フォーラム(WEF)と同様の手法で統計処理しています。内閣府の統計など、いずれもオープンデータの計28指標を選び「政治」「行政」「教育」「経済」の4分野で算出。WEFは政治、経済、教育、健康の4分野を分析していますが、医療水準が高い日本では健康は地域差が小さいことや、生理や妊娠・出産などを巡る課題は男女比からは見えづらいため除外し、住民に身近な地方自治を担う行政を代わりに採用しています。
順位でいけば福岡県は、政治19位、行政10位、教育8位、経済20位ですが、何しろ世界最低レベルの日本の中でどんぐりの背比べです。三浦教授も、この指標は都道府県の順位付けが目的ではないと強調し、「数値の改善だけが目的になるのは本末転倒。重要なのは指標をきっかけに、働き方や日常、意識を変えることです」とのべています。指数は1に近いほど男女平等であることを示し、反対に男性ばかりで女性が1人もいないとゼロになります。
賃金の平等は「ジェンダー平等社会を築くうえでの土台中の土台」です。
正社員でも女性の賃金は男性の約7割、非正規を含むと55%です。男女間の賃金格差は、年収で239万円、生涯賃金に換算すると約1億円にのぼります。格差の大きさは主要7カ国中最悪です。これは、根深い女性蔑視や女性の地位の低さとも深く結びついています。
国民の声と日本共産党国会議員団の論戦は、政府の姿勢を改めさせ、長く拒んできた「男女別賃金の実態把握・公表の企業への義務付け」を実現し、重要な一歩を勝ち取りました。賃金格差の公表は、口先で「女性活躍」「男女平等」などとごまかし、格差を隠すことを許さない重要な一歩です。さらに「男女賃金格差ゼロ」を実現するために、欧州連合(EU)のように罰則がある実効性のともなう法制度が必要です。
選択的夫婦別姓の実現や性暴力の根絶など、ジェンダー平等を求める国民の声は広がり続けています。一方、明治憲法下での家族観・女性観を今に引き継ぐ政治勢力が自民党政権の中枢にすわり、足を引っ張っていることは見過ごせません。
自民党の中心にいるのは、多様な性や家族のあり方を認めず個人を尊重しない、明治時代以来の家父長的な家制度の復活を狙う勢力です。その根本にある女性蔑視思想は、個人の生き方、家族のあり方を、根本から、国家の思うがままの鋳型にはめ込みたい、国家のコントロールの下に置きたいという強い衝動であり、それは「戦争する国」づくりへの野望と深く結びついたものです。
多くの自民党国会議員が参加する「神道政治連盟国会議員懇談会」の6月の会合で、同性愛は「精神の障害、または依存症」と記し、性的少数者(LGBTなど)を差別する冊子が配布されていたことが判明し、批判を浴びています。
先の参院選で統一協会の支援を受けたとされる井上義行議員は「同性婚に反対という事を信念をもって言い続ける」とまで発言しています。統一協会は「文鮮明と女性信者との儀礼的性交以外に、人類が救われる道はない」という特異な性教義を背景に、同性婚を人類を絶滅に導く「許しがたい蛮行」(『世界思想』2019年2月号文鮮明のメッセージ)と否定。多くの自民党議員も国家の公益性を唱え、男女平等と性的少数者に否定的な発言を繰り返しています。自民党と統一協会はジェンダー平等反対でも“共闘”関係にあります。
こうした反動的逆流とたたかい、その影響力を日本の政治から取り除いていくことは、ジェンダー平等の日本をつくるうえでも避けて通れない課題となっています。選択的夫婦別姓、同性婚を認める民法改正、LGBT平等法などが実現しないのは、自民党政治が実現を阻む壁になっているためです。誰もが性別にかかわらず個人の尊厳を大切にされ、自分らしく安心して生きられる社会にするために、きたる県議選挙で自民党に厳しい審判を下す必要があります。
創立100年を迎えた日本共産党は、戦前の厳しい弾圧の時代から、女性の参政権の獲得、男女不平等の法律の撤廃、母子保護法の制定などを掲げました。ジェンダー平等の社会とは、誰もが性別にかかわらず個人の尊厳を大切にされ、自分らしく生きられる、すべての人にとって希望に満ちた社会です。日本共産党は、ジェンダー平等を求める多様な分野の人たちと手を携え、希望の持てる社会の実現へさらに力を尽くします。ご一緒に政治を変えましょう。
同性カップルを自治体が証明したり、宣誓を受け付けたりなどできるようになる「パートナーシップ制度」は、2015年の東京都の渋谷区と世田谷区からどんどん広がり、225自治体(2022年7月末時点)、人口カバー率で5割を超えています。福岡県も2022年4月から導入し、県内では、福岡市、北九州市、古賀市、福津市、粕屋町が導入しています。同年6月30日時点で、全国3168組が交付を受け、県内でも189組が交付を受けています。
自治体のパートナーシップ制度は、国が法律で認める「結婚」とは全く違うものなので、相続などの問題は解決しません。しかし、行政が同性カップルの存在を正面から認めることは、同性カップルがすでにともに生きていることに気付くキッカケにもなりますし、大きな意義があります。
「しんぶん赤旗」がパートナーシップ制度を導入している225自治体(2022年7月末)について、制度の要綱をもとに調べたところ、制度の名称に「ファミリーシップ」を加えて、子どもを含めた家族関係を証明するのが30自治体。名称は「パートナーシップ」制度として、届け出により子どもの名前を受領証などに記載し、関係を証明する方法をとるのが12自治体です。ファミリーシップ制度や子の名前の記載によって、医療機関や保育園などの場で、パートナー関係にある2人が保護者として認められることになります。福岡県では、古賀市、福津市、粕屋町が、名称にファミリーシップ制度を盛り込み、福岡県、北九州市、福岡市が、名称はパートナーシップ制度で、希望すれば子の名前を記載する方法をとっています。
一方、国は、実施済みの自治体の動きを把握する所管部署すら設けていません。内閣府男女共同参画局は、パートナーシップ制度について「局内に担当する部署はない」と答え、法務省民事局参事官室は、パートナーシップ制度の実施状況について「われわれはニュートラル(中立)な立場です。(実施)自治体数を逐一把握する情報収集の体制はないが、同性婚とのかかわりで注目している」とコメントしました。
同性間の結婚を認めない現行制度の違憲性が問われた訴訟で、2021年3月17日、札幌地裁は「憲法に違反する」と判断しました。パートナーシップ制度は法律上の効果はありませんが、同判決は、自治体のパートナーシップ制度の広がりを重視して、違憲判断を出しています。司法の判断や自治体のとりくみから乖離(かいり)する国の姿勢が問われます。
日本共産党など野党は2019年の国会に「婚姻の平等」法案を提出するなど同性婚法制化に力を注いでいます。自民党は、「(同性婚を進めることは)社会の混乱につながる」(下村博文当時政調会長の会見)などという否定的な立場を改め、法整備に責任を果たさなければなりません。2017年7月に発足した「LGBT自治体議員連盟」に、日本共産党の議員も参加しています。
パートナーシップ制度を作り、同性カップルの存在を正面から認めることは、自治体の規模に関係なくできることです。
マイノリティー(少数者)の人たちが肩身の狭い思いで生活せざるをえなかったり、差別や偏見のためにありのままの自分を肯定できなかったりすれば、それは健全な社会とはいえません。逆に、マイノリティーといわれる人たちが暮らしやすいほど、その社会のすべての構成員にとっても暮らしやすい社会であるといえます。この間、性の多様性を認め合い、性的マイノリティーへの差別をなくし、誰もが個人の尊厳を尊重される社会の実現を求める運動が広がり、行政や社会を大きく動かしてきました。
2013年の東京都多摩市や文京区を皮切りに、近年は自治体の「男女共同参画推進条例」の改正によって、性的指向や性自認に関する差別禁止などを盛り込む自治体が広がり、地方自治研究機構によると、全国32の自治体でこうした条例が制定されています。
都道府県レベルでは、2018年10月に東京都が「人権尊重条例」を制定し、性的指向や性自認に関する差別禁止とヘイトスピーチ規制を盛り込んでいます。2019年3月には、茨城県が男女共同参画条例を改正し、差別の禁止を規定しました。
アウティング(本人の意に反して、正当な理由なく暴露すること)をめぐっては、2018年4月に国立市が全国で初めてアウティング禁止を盛り込んだ条例を施行。それ以降、岡山県総社市や東京都豊島区、港区、三重県いなべ市、沖縄県浦添市へと導入自治体は広がっています。
三重県では、性的指向や性自認に関する不当な差別的取り扱いを禁止し、カミングアウトの強制や禁止、そしてアウティングの禁止を規定した”LGBT平等条例”、「性の多様性を認め合い、誰もが安心して暮らせる三重県づくり条例」が2021年4月1日に施行されました。都道府県レベルで「LGBT」に関する課題のみでの独立の条例制定、さらにアウティング禁止を盛り込んだ条例は全国初です。同条例は、三重県議会で自民党を含む全会一致で可決されました。三重県の条例は、基本理念として性的指向や性自認に関する差別禁止やアウティングは「してはいけないこと」だという「社会の共通認識を広げる」ことが狙いとなっており、基本計画を策定し、相談窓口の設置や研修や啓発も広げていくことを定めています。
一方で、今回の条例では、差別的取り扱いやアウティングが起きてしまった際の罰則は規定されておらず、実際に差別的取り扱いが起きてしまった場合の対応についても規定がされていません。他の自治体では「苦情処理委員会」を設置することによって、差別を受けてしまった被害者が自治体に申し立てると、委員会が調査し、場合によっては加害者等へ適切な対応を促すことができます。
性的マイノリティの「平等」を担保する動きは、自治体が先行しており、国会での早急な「LGBT平等法」の制定が求められます。
2018年12月5日、日本共産党、立憲民主党、国民民主党、無所属の会、自由党、社民党の野党5党1会派(当時)で、「性的指向又は性自認を理由とする差別の解消等の推進に関する法律案」(通称・LGBT差別解消法案)を国会に提出しました。同法案は、性的指向や性自認を理由とする差別について、行政機関や事業者における「差別的取扱いの禁止」を定め、職場や学校などでの差別を解消する方策を盛り込み、実効性確保のために主務大臣が指導や勧告などをおこなうとしたものでした。
一方、自民党など与党は2021年の通常国会での成立を目指し、LGBT理解増進法案という名称の法案を提案しました。与野党の議員連盟ですり合わせの協議が行われ、差別の禁止や解消が明記されていないなどの不十分さはあるものの、前進した案で合意できました。しかし、結局自民党内から、「LGBTは道徳的に許されない」「種の保存の原則に背く」などの暴言と異論が飛び出し、国会提出は見送られました。
LGBT/SOGIについての施策が一定前進し、社会的な認知が広がってきたとはいえ、当事者がかかえる困難は依然として大きなものがあります。意図的な同性愛嫌悪(=ホモフォビア)も放置できませんが、性的マイノリティーについて関心や知識がないことからくる差別と偏見にたいする当事者の苦痛はたいへんなものです。
日本共産党は綱領に「性的指向と性自認を理由とする差別をなくす」ことを掲げ、国政選挙の政策でも、とくに、同性婚の実現やLGBT平等法の制定を盛り込みました。日本共産党はLGBT/SOGIに関する差別のない社会をめざし、性的マイノリティー(少数者)の人たちの人権と生活向上のために、この公約の実現へ、県政でも全力を尽くします。
LGBTは、レズビアン(女性同性愛)、ゲイ(男性同性愛)、バイセクシャル(両性愛)、トランスジェンダー(出生時に割り当てられた性とは異なる性を自認する人)の英語の頭文字で、性的マイノリティーの総称として使われています。さらに多様な性的指向・性自認を含む表現として、LGBTs(複数形のs)やLGBTQ(Qはクエスチョニング=自分の性別が分からない・意図的に決めていない人、と、クィア=性的マイノリティーの総称の頭文字)などの言葉が使われることもあります。
SOGI(ソジ)とは、セクシャル・オリエンテーション(SO=性的指向)とジェンダー・アイデンティティー(GI=性自認)の頭文字から作られた言葉です。性的マイノリティーの人も、異性愛者の人も、すべての人の多様な性的指向・性自認を認め合おうという意味で使われるようになっています。
コロナ禍のもとで女性への暴力が増大し、DV被害相談は2020年度にはコロナ前の2019年度の1・6倍へ、性暴力被害ワンストップ支援センターへの相談は前年の1・2倍にもなり、21年度以降も高い水準が続いています。
性暴力は取り返しのつかない「魂の殺人」であり、ジェンダー格差再生産の要因でもあります。その根絶は政治の緊急かつ根本の課題です。
女性や子どもにとって、もっとも身近な性暴力が痴漢です。日本共産党東京都委員会の痴漢被害アンケート調査(2021年発表、1435人が回答)では、ほとんどの女性が経験し、その後の人生に深刻な打撃をこうむりながら、被害を訴えることもできない実態が明らかになりました。これを受けて各地でアンケート調査が取り組まれ、「痴漢ゼロ」を求める運動が広がっています。政府も「痴漢ゼロ」にむけた政策パッケージを今年度中に打ち出すことを表明しており、運動が政治を動かしています。痴漢を”軽い問題”扱いし、女性の尊厳を軽んじる社会的風潮を広げてきました。政治の責任で対策をつよめます。
日本共産党福岡県議団の「痴漢・盗撮被害アンケート」(2022年6月中間報告、98人が回答)でも、被害があってもなかなか明らかにできないこと、被害を受けた恐怖や怒りは長く続き、被害者を苦しめ続けていることがつづられています。深刻な性犯罪の告発もありました。被害の記述から、本県でも性犯罪である痴漢が、日常生活のなかにまん延している実態が明らかになりました。
「性的な写真をSNSにアップされた」「女性が意見を主張すると誹謗(ひぼう)中傷が殺到」など、オンライン上の暴力は人の命すら奪いかねない人権侵害です。
生活困窮、DV被害、社会的孤立、性的搾取などで苦しむ女性たちを包括的に支援する「困難な問題を抱える女性への支援に関する法律」が、日本共産党を含む超党派の提案によって成立しました。多様な問題を抱える女性への公的支援の根拠がこれまでは売春防止法とされていましたが、そこから転換し、当事者の人権保障を基本理念に掲げるとともに、国と自治体の責務を定めています。支援を受ける女性の声や婦人相談員など、実際に現場で支援にあたる人々の切実な声と運動を力に実現した重要な前進です。
リプロダクティブ・ヘルス&ライツ(性と生殖に関する健康と権利)は、子どもを産む・産まない、いつ何人産むかを女性が自分で決める基本的人権です。性と生殖に関する健康や、それについての情報を最大限享受できることも、大事な権利の一環です。
ところが日本では、性教育がきわめて不十分です。子どもたちは、人間の生理や生殖、避妊についての科学的な知識も、互いを尊重し合う人間関係を築く方法も、自分の心や体を傷つけるものから身を守るすべも十分に学べないまま、成長していきます。社会には意図的に中絶へのスティグマ(負の烙印〈らくいん〉)が広げられ、明治期から残る刑法の自己堕胎罪もあいまって、多くの女性が深い苦しみを抱えてきました。リプロ(性と生殖)に関しても、先進国ではありえない遅れを抱えているのが日本です。
過去1年間に金銭的理由で生理用品の入手に苦労したことがある若者が5人に1人にのぼることが明らかになり(「みんなの生理」アンケート、2021年3月)、「生理の貧困」がみんなの問題として議論される大きな前向きの変化も生まれました。こうした世論と運動の力で、自治体による学校や公共施設への配置もすすんでいます。さらに国の予算を確保し、恒久的な無償配布をすすめます。
どんな生き方をしても、誰もが安心して生活でき、老後をおくることができる社会をめざしてジェンダーの視点で社会保障の充実をはかります。ひとり親家庭への支援の充実、女性の無年金・低年金の解決、女性の貧困の克服は急務です。
90年代以降、世界は「ジェンダー主流化」を合言葉に、根強く残る男女格差の解消を進めてきました。「ジェンダー主流化」とは、あらゆる分野で、計画、法律、政策などをジェンダーの視点でとらえ直し、すべての人の人権を支える仕組みを根底からつくり直していくことです。
そのためにも、政治家や、企業の管理職はもちろん、各種団体、地域など、あらゆる場面で女性の参画を進めることが求められています。意思決定の場に女性を増やすことは、ジェンダー平等を進めるために欠かせません。
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